People of Hippobloo

ひと。タイと日本と。

who we are

ビーチサンダルをつなぐ人たち

恐るおそるかけてみた一本の電話。

今から10年以上も前、ビーチサンダルを仕事にしようと思い立った日から、世界中のビーチサンダルを試してみようとネットで情報を集めていた。

その中で特に惹かれた一足があった。カラフルでなんとなく懐かしいようなクラシカルなフォルムのビーチサンダル。天然ゴムでできていると書いてあるのもなんとなくエコっぽい響きで気になったのだ。

ネットで調べてみたところで限界がある。とりあえず記載してある電話番号にかけてみた。バンコクの電話番号。

ドキン。女性が電話に出た。そもそも英語が通じるのかどうかもわからない。

「あの…、日本から掛けてるんですけど、御社のビーチサンダルが気になりまして。日本に輸出して取引とかしてもらえるのでしょうか?」

テンパってやや早口だったのかもしれない。この女性、そしてその家族とはその後親友になるのだが、それはまだ先の話。

「……。」

一瞬の沈黙の後、女性は割りとあっさりと言いきった。「Sure!メールで詳しく発注書をくれればいいよ」なんとなく親切そうなその声色にやや安心した。

「発注できる商品の色とサイズのリストのようなものがあればわかりやすいんですけど…」僕が続ける。

「……。」

再び沈黙。

「注文できるカラーは毎日変わるから…ゴニョゴニョ。なんて説明すればいいのかな…」あんまり英語は得意ではないのか、慎重に言葉を選びながら説明を試してくれる。

「それなら来月会いに行っていいですか?」と僕。「来たいのなら来てもいいけど…」戸惑う電話の向こうの女性。

その電話の3週間後、格安チケットを手に入れ僕はバンコクに降り立った。

初めてのタイ。海外旅行自体にそれほど気負いはなかったが、ある意味初の「ビジネストリップ」だ。機内では現地でどう商談するかメモを書きながら興奮を抑えきれずにいた。

その夜泊まるホテルすら決めてない、バックパッカーのノリで降り立ったバンコク。まずはバスで市内に向かい、タクシーに800バーツ未満の宿を探して欲しいと頼んだ。ダニだらけのベッドが僕を待っていた。

ニワトリが鳴く声と強い日差しで目が覚めた。ホテルに横付けしていたトゥクトゥクに乗り込み、いざ商談へ。軽いノリのトゥクトゥクのお兄ちゃんに騙され、ビミョーな仕立て屋でシャツを作ったりしつつ、ようやくたどり着いたのが古びたビルの一角だった。

「本当に来るとは思わなかった!まさか私と話すためにはるばる日本から来たわけじゃないよね?」

いや、あなたに会うためだけに日本からタイに飛んできたんだけどね。このビーチサンダルに未来があると思ったから。

ちょっとはにかんだような笑顔が眩しい、タイの人たち。ややシャイで一抹の警戒感をもたれてたみたいだけど、僕は一目でその人たちが好きになった。

それからは毎年タイを訪れてきた。大切な用事がなくても、とりあえず会いに行き、一緒に食事をして話す。それだけなのだけど、確実にお互い打ち解けていった。

彼女の家族や工場のオーナーも紹介してもらい、だんだんと友人の数も増えていった。タイという国も好きになった。

実はもともとそれほど関心があるわけではなかったけど、今では日本の次に好きな国となった。夏好きの僕にはうれしい常夏の気候。美味しい食事。豊かな文化と自然。そしてどこに行っても出会える人懐っこい笑顔。

その彼女のご家族とは、毎年お互いの国を訪ね合う親友になった。毎日とりとめのない話題をやり取りして笑い合う。コロナで会えない時間も長かったけど、今こそ会いに行こう。

ビーチサンダルが繋いでくれた僕の財産だ。